2012年07月27日

「いつか」なんて風のひと吹きで

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日本は金曜日の朝があけたところですね。
こちらは今、木曜日の夕方。窓の外はまだ眩しい日差しが勢いを弱める兆しもありません。遠く、まるで風のようにアムトラックの電車音が聞こえます。北へ上ればニューヨークを通ってボストンへ、南へ下ればフロリダまで行くことができます。

飛行機なら国内線でひとっ飛びの区間を、いつかガタゴトと長い時間をかけて、北から南への電車の旅をしてみたいという思いは、いまだ消えたわけではありません。昔見たテレビドラマを思い出しながら、今はなき「ルート66」を東から西へと走る夢だってまだあります。

けれども、ひとつ知恵がついたとしたら、「いつか」ほどはかないものはない、ということでしょうか。それらは、風のひと吹きで、いとも簡単に遠くへと逃げ去ってしまうのですから。

長い時間でした。独楽鼠(こまねずみ)のように、と言っても独楽鼠が動き回る様など見たことはありませんが、ひっきりなしに動いていたような気もしますし、検査やら、診断やら、また検査やらをいつもひたすら待っていたような気もします。あるいは、長い点滴や吸引の時間をただ呆然と夫のそばにいただけのような気もします。混乱しています。

いつものような週末の後に、それは突然、本当に突然やってきました。

土曜日の夕方にはギリシャ政府の友と3人で、真剣にギリシャという国の未来を論じ、夜には表参道の洗練されたイタリアンで、積年の友人夫妻とその立派に成人した子どもたち6人で楽しいテーブルを囲みました。共に過ごす時間が嬉しくて、みんなでいったい何本のワインを空けたことでしょう。特別の時間でした。

日曜日にはスコップやホースやごみバケツなど、ごく普通のものをごく普通に買いに行き、ごく普通に一緒に庭で働きました。こちらの端と向こうの端に蚊取り線香を置いて、しめった土から雑草を引っこ抜き、新しい花の苗を植えました。とりとめもないおしゃべりをしながらの協働作業は、とりわけ何と言うことはないのに、なんと心弾む時間だったでしょうか。

夜には、私はいつものようにキッチンに立ち、いつものように料理を作り、いつものようにビールで乾杯をし、いつものようにワインのコルクを開けました。そうやって「いつものように」が線路のようにつながっていったのに、それが突然やってきたのです。夫が急病になりました。

月曜日、火曜日と日本の病院で検査をし、応急処置をしてもらい、水曜の早朝に東京を発ち、ここワシントンへと飛んできました。12時間を越えるフライトの後、荷物を家に置いてすぐに、東京から何度も電話をして手はずを整えていたアメリカの主治医のもとへと急ぎました。

主治医のオフィスから、大学病院へと移り、長い長い時間を過ごした後、どうしても家へ戻りたいと言っては譲らない夫を連れて、真夜中のタクシーで昨夜この家へ帰ってきました。

この先どうなるのかはわかりません。
電話で主治医と繋がっては指示は受けているものの、このままでいいはずがありません。物を食べられない夫の体力は日に日に衰えているように見えます。なぜ、あのまま押さえつけてでも日本に居る道を選ばせ、すぐに入院をさせなかったのかと、わが身の不甲斐なさが悔やまれます。ここでは私のできることは限られています。

切り詰めた睡眠の中でさまざまな思いが去来します。おさえてきた愛や怒りや悲しみが頭をもたげます。決して書くまいと思ってきたやるせなき思いに急かされもします。もう充分にわかっていたはずの本当にたいせつなことが、ますます鮮やかに浮かびもします。

そして、また、自他共に天然楽観能天気を認めていた私が、「しょせん『いつか』なんて風のひと吹きさ」と、珍しく厭世的になっています。と、同時にこんな言葉を呟いてもいます。ということは、ありがたいことに土台はやっぱり天然楽観能天気なのかもしれません。ユーミンこと松任谷由実さんがデビュー40周年を迎えての言葉です。

「でも険しい道を乗り越えてたどり着いた場所から見る景色は、美しくないはずがないから。」

たとえ短くとも、また、書ける時に書きます。
書くことで不安な気持ちが少し整理されます。
物理的にも、精神的にも、書けること自体がとてもありがたいことに思えます。

                           By 池澤ショーエンバウム直美

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昨日のグローバルキッチン http://blog.goo.ne.jp/naomiwakuwaku 
7月27日(金):素敵な友人宅での典型的アメリカンディナー
posted by 池澤ショーエンバウム直美 at 08:25| Comment(0) | パートナーシップ
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