2009年02月10日

ごく普通の会話ができる幸せ

 生まれてから結婚前日まで親元で過ごした私が憧れていたものに 「一人暮し」 がありました。大学時代、地方から出てきて一人で下宿生活をしている友人の 「自由」 がどんなにうらやましく思えたことでしょうか。時がめぐり、そんな私が、人生の変わり目の何年かを一人で暮すことになりました。仕事にも恵まれていましたし、男女を問わずたくさんの良き友にも恵まれていました。やりたいことはたくさんありましたから退屈など感じる暇もありませんでした。ようやく手に入れた憧れの一人暮しを充分に謳歌していたのです。

 そんな晩冬の日のことです。ハイヒールを履いてお気に入りのコートをはおり、背筋を伸ばして颯爽と駅までの桜並木を歩きながら、頭の中では一日の仕事と、友人たちとの夜の集まりの段取りを考えていました。そんな私のすぐ前を同じ年恰好の夫婦がゆっくりと歩いていきます。ごく普通の服を着て、ごく普通の靴を履き、ごく普通に話をしながら。急ぎ足で追い抜いた私の背中に届いたのは、「寒いね」 「うん、寒いね」 「早く春になるといいわね。」 「うん、そうだね。」 「今日のご飯何にする?」 「何でもいいよ。」 「何でもいいじゃわからないじゃない。」 「そうか、じゃ、すき焼きにでもするか。○子も帰ってくるというし」。。。

 そんなごく普通の夫婦の、ごく普通の会話を聞いて、なぜか突然、無性に寂しくなりました。文学や、音楽や、絵画や、政治や、ビジネスや、哲学や、生き方を語り合う最高の友人達との時間は、素敵な知的満足感をもたらしてくれますし、啓発もしてくれます。刺激的で、ワクワクして、ドキドキして、楽しい。そんな贅択を持ちながら、あろうことか、ごく普通に見える夫婦のごく普通の会話がとてもうらやましく思えてしまったのです。

 そんな青天の霹靂からまたしても時がたち、大きな巡り会わせで、共に年を重ねて行く人と出会いました。家の中でも再び知的な会話ができるようになったのは嬉しいことですが、それにもまして幸せなのはごくごく普通の日常生活の会話ができる人がいることです。

 「おはよう!いい天気ねえ。」 「おはよう!いい天気だねえ。」 「コーヒーができてるよ。」 「ありがとう。」 これが本日最初の私たちの会話です。
posted by 池澤ショーエンバウム直美 at 23:12| Comment(0) | TrackBack(0) | パートナーシップ
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